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以下の講演,学会発表およびワークショップが予定されています(「終了」しました。)
回帰木分析―否定によって日本語の行為要求表現はより丁寧になるか?
日時:2025年3月13日(木)
場所:上海大学宝山キャンパスC棟(外国語学院)506号室講師:玉岡賀津雄(上海大学、名古屋大学)
要約:決定木分析の一種である回帰木(かいきぎ,かいきぼく)分析は,複数の説明変数(独立変数)で量的尺度の目的変数(従属変数)を予測する解析法です。日本語の行為要求表現が,普通形の肯定の「~てくれる」よりも否定の「~てくれない」のほうが,さらに疑問形の肯定の「~てもらえますか」より否定の「~てもらえませんか」のほうがより丁寧だといわれています。こうした,肯定形か否定形か,普通形か疑問形かといった言語特性によって,丁寧度がどう変わるかを日本語母語話者の主観的判断で検討した研究(林・玉岡・宮岡, 2011)を例に,SPSSのDecision Treesを使った回帰木分析の解析法を説明する。
参考文献
1. 玉岡賀津雄 (2023)『決定木分析による言語研究, 』くろしお出版.
2. 林炫情・玉岡賀津雄・宮岡弥生 (2011)「否定によって日本語の行為要求疑問文はより丁寧になるのか」『日本学報』86, 143-153.
話題化機能再考―日本語、韓国語、トンガ語の文処理メカニズムの比較
日時:2025年3月14日(金)
場所:上海財経大学(国定路777号) 紅瓦楼408会議室講師:玉岡賀津雄(上海大学、名古屋大学)
要旨: 本講演では、日本語、韓国語、トンガ語における話題化の機能が文処理に与える影響を比較検討する。Tamaoka et al. (2024) の研究を基に、動詞終末型のSOV語順を持つ日本語および韓国語と、動詞初頭型のVSO語順を持つトンガ語を対象に、話題化が文理解および処理に及ぼす影響を明らかにした。具体的には、動詞終末型言語(韓国語)では、話題化された目的語の名詞句(O)が主語(S)の前に配置されるOSV語順が基本語順と異なるため、かき混ぜ効果(scrambling effect)による処理遅延(抑制効果)が観察された。一方、動詞初頭型言語(トンガ語)では、話題化された目的語が文頭に移動するO1VSgap1語順においても、基本語順(VSO語順)と同等の処理効率が確認された。この結果は、トンガ語において話題化が文中の移動ではなく、基底生成される可能性を示唆している。これらの結果は、話題化の機能が各言語の語順構造や文処理メカニズムと密接に関連していることを示しており、話題化の普遍的特性と言語固有の処理特性を解明する一助となる。
参考文献
1. Tamaoka, Katsuo, Shaoyun Yu, Jingyi Zhang, Yuko Otsuka, Hyunjung Lim, Masatoshi Koizumi & Rinus G. Verdonschot (2024). Syntactic structures in motion: investigating word order variations in verb-final (Korean) and verb-initial (Tongan) languages. Frontiers in Psychology, 15: 1360191 DOI: doi.org/10.3389/fpsyg.2024.1360191
2. Tamaoka, Katsuo (2023). Chapter 5 - The time course of SOV and OSV sentence processing in Japanese. In Masatoshi Koizumi (Ed.) Issues in Japanese Psycholinguistics from Comparative Perspective, (pp. 77-97), De Gruyter Mouton.
3. Tamaoka, Katsuo & Hyunjung Lim (in press). Chapter 18: Cognitive Mechanisms in Korean Sentence Processing. Hye K. Pae, Heather Winskel, Say Young Kim (Eds.) Handbook on the Korean Language and Literacy: Insights into Hangul and Text Processing, the Springer.
ベトナム人日本語学習者による訓読み漢字の手書きのメカニズム
日時:2025年3 月15 日(土)
場所:東華大学延安路キャンパス中主棟2F講師:玉岡賀津雄(上海大学、名古屋大学)
要旨: ベトナム語母語話者は,言語の表記にアルファベットを使用している。そのため、ベトナム人日本語学習者にとって、母語の表記体系とは異なる漢字の手書きには特有の課題が伴う。本講演では、ベトナム人日本語学習者を対象に、訓読み漢字の手書きのメカニズムを解明した実験研究(Tamaoka et al., in preparation)を紹介する。この研究では、音声提示、書字開始、そして書字終了までの時間経過における認知的処理がどのように行われるかを分析した。その結果,漢字語の音声を聞いてから想起するまでは,ベトナム人日本語学習者の語彙知識と漢字の使用頻度の影響が強く,書字行動が始まってからは視覚的複雑性(画数)の影響を受けることがわかった。漢字の書字の正答率については,漢字の使用頻度と視覚的複雑性の影響がみられた。時間経過でみると,漢字語の音声提示から書字行動を始める前までは,ターゲット語を思い出すのに必要な日本語学習者の脳内辞書の記憶(語彙知識)と想起の容易さ(使用頻度)が強く影響した。実際の書字行動に入ると,手書きのための視覚的複雑性(画数)が影響した。正答率は,漢字語そのものの特性である視覚的複雑性と使用頻度が影響した。このように,時間経過と共に,影響要因が変化しており,これは脳内での各部位の活性化を反映していると思われる。
参考文献
1. Tamaoka, K. (2014). The Japanese writing system and lexical understanding. Japanese Language and Literature (The American Association of Teachers of Japanese, AATJ), 48, 431-471.
2. 玉岡賀津雄・高橋登 (1999)「漢字二字熟語の書字行動における語彙使用頻度および書字的複雑性の影響」『心理学研究』70, 45-50.
3. 玉岡賀津雄 (2022)「日本語学習者の記憶メカニズムと心的辞書の構造」『第二言語としての日本語の習得研究』25, 57-83.
助言場面―中国人日本語学習者の助言場面における意識と行動に影響する諸要因
日時:2025年3月16日(日)
場所:上海師範大学徐匯キャンパス東部57号楼306室講師:玉岡賀津雄(上海大学、名古屋大学)
要旨: Brown & Levinson(1978, 1987)のポライトネス理論の枠組みで,中国人日本語学習者の助言の難しさに影響する諸要因を検討した。その際,日本語の学習経験のない中国語母語話者を中国語の基準,中国語の学習経験のない日本語母語話者を日本語の基準として設けた。そして,日本語学習者に対して,中国人への助言の中国語版質問紙と日本人への助言の日本語版質問紙の両方を実施して,両言語の基準と比較した。このサンプリングは2つの言語の影響を同じ日本語学習者で比較できるので最適なアプローチである。そして,(1)社会的距離,(2)力関係,(3)性差,(4)助言により相手を恥ずかしがらせる程度(心理的要因),(5)文化・言語的背景,の5つを説明変数とし,助言の難しさを目的変数とする回帰木分析を行った。その結果,相手を恥ずかしがらせる程度がもっとも強い要因となりポライトネス理論に心理的な要因を追加することを提言した。また,語用論的転移として,日本学習による中国の社会文化への「適応転移」および中国への「逆行転移」もみられた。
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