授業
日本語教育学原論a

◇講義題目

実証的言語研究法・基礎編

◇担当教員

玉岡賀津雄

◇授業時間と教室

前期,火曜日の6限目,18:15~19:45,全学教育棟北棟4階 405

◇オフィス・アワー

月曜日 (16:30~18:00)
場所: 全学教育棟北棟4階403

◇目的・ねらい

日本語教育・習得の研究を対象として,心理言語学的なアプローチによって,言語の研究を
「直感」ではなく「実証」的に行うための研究および実践への応用の方法を習得することを目的とする。各授業のテーマについて,科学的な言語研究のための調査・実験計画の立案,データの統計解析,分析結果の読み方,論文での報告の仕方など一連の論文作成のための方法を身につける。なお,講義の焦点は日本語教育であるが,言語一般の研究,実験研究などもテーマとして含んでいる。

◇授業内容

言語研究,特に日本語教育のための研究に関連して,講義では,クラスごとに研究テーマがある。それに対して,
(1)どういう理論的背景があるか,
(2)どのような点が問題となるのか,
(3)具体的な証明されうる研究対象は何か,
(4)どのように被験者(日本語学習者,英語学習者,母語話者など)サンプルまたはコーパスを対象とすべきか,
(5)どのようなデータ収集,テストあるいは実験をする必要があるか,
(6)どのような分析を行うべきか,
(7)結果をどのように図表化すべきか,
(8)どのように分析結果を報告すべきか,
(9)結果からどのような結論が導かれるか,
(10)どのように現場に応用できるか,
 これら一連の研究方法を説明する。受講者は,これらの流れを理解して,自分の研究に応用できる能力を養う。
 データの解析には, Microsoft ExcelとIBM-SPSS社の統計パッケージを使用する。日本語や英語の言語習得・理解に関係した仮説を証明するために,音韻,語彙,文,コーパスの共起頻度,談話 (discourse) など多様なデータについて,15回の授業で基礎的な分析法を指導する。まず,ノンパラメトリック分析から始める。会話での表現頻度,「はい」「いいえ」という二者択一の回答,コーパスなどの頻度データの解析のためにカイ二乗分布を使った一様性の検定と独立性の検定,クラスタ分析,決定木分析 (decision tree analysis) の中の分類木分析
(classification tree analysis) を使った言語研究を紹介する。より高度な決定木分析 (回帰木分析) は,日本語教育学原論bで扱う。さらに,パラメトリック分析としては,t検定,反復の無い
(non-repeated)および反復の有る(repeated)分散分析,多重比較,単純対比を使った研究を紹介する。授業の最後では,最新の分析法である線形混合効果モデル (LME: linear mixed
effect model)の分析法を,IBM-SPSS社の統計パッケージを使って紹介する。

[各クラスの授業内容 – グループ間比較と記述的アプローチ]

クラス♯1 2013-04-16 連濁の有無に関する頻度: 適合度検定(一様性の検定)
クラス♯2 2013-04-23 焼酎の連濁頻度: 独立性の検定および残差分析
クラス♯3 2013-04-30 焼酎の連濁の地域差: ボンフェローニの補正と分類木分析
クラス♯4 2013-05-07 日本語学習者の普通体と丁寧体の使用頻度: 分類木分析
クラス♯5 2013-05-14 接続助詞の頻度: コレスポンデンス分析と決定木分析
クラス♯6 2013-05-21 聴解・語彙・文法テストの成績によるグループ分け
クラス♯7 2013-05-21 テストの妥当性と信頼性: 信頼度係数とブートストラップ
クラス♯8 2013-05-28 和製英語の理解: t検定と独立性の検定の復習と応用
クラス♯9 2013-06-04 日本文の正順語順(canonical order): 多様なt検定の紹介
クラス♯10 2013-06-11 可能文の認知処理: t検定とクラスタ分析の応用
クラス♯11 2013-06-18 和製英語の理解に及ぼす日本語語彙力の影響: 分散分析
クラス♯12 2013-06-25 短縮語の理解: 分散分析3とクラスタ分析による分類
クラス♯13 2013-07-02 音声提示のかき混ぜ文の理解: 反復のある分散分析
クラス♯14 2013-07-09 香港中文大学のSSSR学会参加のため休講
クラス♯15 2013-07-16 山口方言話者の世代間比較: 被験者・項目分析
クラス♯16 2013-07-23 文処理における眼球運動: 線形混合効果モデル(LME)

授業後に,四者択一形式の最終試験を実施する。

◇教科書

授業中に資料を配布する。

◇参考文献

[一般的な解説]
  • 近藤安月子・小森和子編 (2012)『研究社 日本語教育辞典』東京: 研究社.
[分析の応用例]
  • 伊原睦子・村田忠男(2006). 日本語の連濁に関するいくつかの実験.音韻研究,9,17-24.
  • 林炫情・玉岡賀津雄・宮岡弥生 (2011). 否定によって日本語の行為要求疑問文はより丁寧になるか. 日本学報, 86, 1-11.
  • Koizumi, M., & Tamaoka, K. (2010). Psycholinguistic evidence for the VP-internal subject position
    in Japanese. Linguistic Inquiry, 41, 663-680.
  • 小森和子・玉岡賀津雄 (2010). 中国人日本語学習者の同形類義語の認知処理. レキシコンフォーラム, 5, 165-200.
  • 玉岡賀津雄・林炫情・池映任・柴崎秀子 (2008). 韓国語母語話者による和製英語の理解. レキシコンフォーラム, 4, 195-222.
  • 玉岡賀津雄・邱學瑾・宮岡弥生・木山幸子 (2010). 中国語を母語とする日本語学習者によるかき混ぜ語順の文理解―聴解能力で分けた上位・中位・下位群の比較―. 日本語文法, 10(1), 1-17.
  • Tamaoka, K., Ihara, M., Murata, T., & Lim H. (2009). Effects of first-element phonological-length and etymological-type features on sequential voicing (rendaku) of second elements. Journal of
    Japanese Linguistics, 25, 17-38.
  • Tamaoka, K., & Ikeda, F. (2010). Whiskey, or Bhiskey?: Influence of first-element and dialect
    region on sequential voicing of shoochuu. 言語研究, 137, 65-80.
  • Tamaoka, K., Lim, H., Miyaoka, Y., & Kiyama, S. (2010). Effects of gender-identity and
    gender-congruence on levels of politeness among young Japanese and Koreans. Journal of Asian Pacific
    Communication, 20, 23-45.
  • Tamaoka, K., Ihara, M., Murata, T., & Lim H. (2009). Effects of first-element phonological-length
    and etymological-type features on sequential voicing (rendaku) of second elements. Journal of
    Japanese Linguistics, 25, 17-38.
  • Tamaoka, K. (2007). Rebounding activation caused by lexical homophony in the processing of
    Japanese two-kanji compound words. Reading and Writing, 20, 413-439.
  • 大和祐子・玉岡賀津雄 (2011). 日本語テキストのオンライン読みにおける漢字表記語と片仮名表記語の処理: 中国人日本語学習者の語彙能力上位群と下位 の比較. 小出記念日本語教育研究会論文集, 16, 73-86.

注: 授業中に紹介する論文は,この玉岡賀津雄のホームページの中の「研究業績」からダウンロードできる。

◇履修条件

特になし

◇成績評価

授業への出席および積極的な参加,さらに最後の授業で,四者択一のテストを実施して評価する。

TOPに戻る

日本語教育学原論b

◇講義題目

実証的言語研究法・発展編

◇担当教員

玉岡賀津雄

◇授業時間と教室

前期,火曜日の6限目,18:15~19:45,全学教育棟北棟4階 405

◇オフィス・アワー

月曜日 (16:30~18:00) , 場所: 全学教育棟北棟4階403

◇目的・ねらい

日本語教育・習得の研究を対象として,心理言語学的なアプローチによって,言語の研究を
「直感」ではなく「実証」的に行うための研究および実践への応用の方法を学習し,習得することを目的とする。クラスごとに言語研究のテーマがあり,科学的な言語研究のための調査・実験計画の立案,データの統計解析,分析結果の読み方,論文での報告の仕方など一連の論文作成のための方法を身につける。なお,「日本語教育学原論 a」では,言語の実証的研究のための基礎を学んだが,「日本語教育学原論 b」では,高度な統計ソフトや数学理論を応用した言語研究の実証法を習得する。

◇授業内容

「日本語教育学原論a」の授業に続いて,言語研究,特に日本語教育研究に応用できるより高度な数学・統計解析法を使った研究手法を身につけるために,まず基本的な予測統計の分析を学習する。具体的には,相関係数,単回帰,重回帰,判別分析を教える。実際の言語研究で得られたデータを使いながら, IBM-SPSS社の統計パッケージを使って分析してみる。もちろん,得られた結果の読み方,図表の書き方,報告の仕方も同時に学ぶ。基本的な予測統計が終ると,次の6つを紹介する。

(1)構造方程式モデリング (SPSS AMOS 16.0)―構造方程式モデリング (SEM; structural
equation modeling)とは,多変量の因果関係のモデルを証明するための分析法である。IBM-SPSS社が開発した AMOSと呼ばれる統計ソフトのおかげで,この難解な統計解析が恰も「お絵かきソフト」のようにできるようになった。具体的には,中国語・韓国語を母語とする日本語学習者に行った日本語能力試験のデータを使用して分析を試みる。SEMの基本概念,変数の種類とその意味,モデル検定の指標とその読み方,結果の解釈,論文で使うための作図などを教える。

(2)決定木分析(回帰木分析と分類木分析の両方)-コーパスから得られた頻度ばかりでなく,スケールのデータにも使える多変量解析である。ある特定の従属変数を,複数の独立変数で予測する手法である。従属変数を予測する強さで,独立変数の影響力の結果を階層化して樹形図
(dendrogram)として描いてくれる高度な統計解析である。これまで経済学・経営学のマーケティングの研究で使用されてきた解析法であるが,言語研究にも極めて有効である。

(3)小規模サンプルのための項目応答理論 (T-DAPという統計ソフトを使用 )-項目応答理論 (IRT: item response theory)はテストの受験者数が大規模でなくては効力を発揮しないのが普通である。しかし,それでは日本語教育の現場で使用するテストには実用的ではない。そこで,100名くらいの小規模の受験者に対して使用できる1パラメタ・ラッシュモデル (Rasch Model)を紹介する。データとしては,中国語・韓国語を母語とする日本語学習者の日本語能力テスト,和製英語の理解テスト,慣用句・オノマトペの理解テストなどを使用する。

(4)エントロピー (entropy)と冗長度 (redundancy)によるコーパス解析 (Microsoft Excelに公式を入れて計算 )-シャノンの情報の数学理論からエントロピーと冗長度の指標をコーパス研究に応用する方法を教える。具体的には,韓国語を母語とする日本語学習者の敬語表現や日本語母語話者とコーパス頻度のオノマトペのデータなどを使用する。さらに,

(5)反応実験を実施するためのE-primeの使い方,眼球運動実験とデータ分析,さらに脳波
(Electroencephalogram: EEG)を使った事象関連電位(ERP: event-related potentials)の測定とデータ解析について扱う。

[各クラスの授業内容 – 実験手法,予測統計および因果関係]

クラス♯1 2013-10-01 語彙,文法および読解の関係: 相関分析と重回帰分析
クラス♯2 2013-10-08 語彙能力と文法能力の構成概念: 探索的・確認的因子分析
クラス♯3 2013-10-15 Can-do-Scaleと日本語能力: 確認的因子分析と重回帰分析
クラス♯4 2013-10-22 語彙,文法,読解の因果関係モデル: SEM-1
クラス♯5 2013-10-29 情動のIQ (Emotional Intelligence): 探索的因子分析SEM-2
クラス♯6 2013-11-05 「のだ・のか」と語用能力の因果関係: SEM-3
クラス♯7 2013-11-12 テストの妥当性と信頼性: 信頼度係数とブートストラップ
クラス♯8 2013-11-19 動詞および形容詞化の予測: ロジスティック回帰分析
クラス♯9 2013-11-26 複合動詞の特性: エントロピーと冗長度
クラス♯10 2013-12-03 E-prime - 1
クラス♯11 2013-12-10 E-prime - 2
クラス♯12 2013-12-17 ERP - 1
クラス♯13 2013-12-24 ERP – 2
クラス♯14 2013-07-09 香港中文大学のSSSR学会参加のため休講
クラス♯15 2014-01-21 眼球運動 - 1
クラス♯16 2014-01-28 眼球運動 – 2

授業後に,四者択一形式の最終試験を実施する。

◇参考文献

  • Barrett, P. (2007). Structural equation modeling: Adjudging model fit. Personality and Individual
    Differences, 42, 815-824.
  • Bentler, P. M., & Bonnet, D. C. (1980). Significance tests and goodness of fit in the analysis of
    covariance structures. Psychological Bulletin, 88, 588-606.
  • Bozdogan, H. (1987). Model selection and Akaike’s information criterion (AIC): The general theory
    and its analytical extensions. Psychometrika, 52, 345-370.
  • Browne, M. W., & Cudeck, R. (1993). Alternative ways of assessing model fit. In K. A.
  • Dixon, J. A. & Marchman, V. A. (2007). Grammar and the lexicon: Developmental ordering in
    language acquisition. Child Development, 78, 190-212.
  • Hooper, D., Caoughlan, J., & Mullen, M. (2008). Structural equation modeling: Guidelines for
    determining model fit. Electronic Journal of Business Research Models, 6, 53-60.
  • Jöreskog, K., & Sörbom, D. (1993). LISREL 8: Structural equation modeling with the SIMPLIS
    command language. Chicago, IL: Scientific Software International.
  • Kaplan, D. (2000). Structural equation modeling: Foundation and extensions. Thousand Oaks,
    CA: Sage.
  • Marsh, H. W., & Grayson, D. (1995). Latent variable models of multitrait-multimethod data.
    In R. Hoyle (Ed.), Structural equation modeling: Concepts, issues and applications (pp. 177-198).
    Thousand Oaks, CA: Sage. Schermelleh-Engel, K., Moosbrugger, H., & Müller, H., (2003).
    Evaluating the fit of structural equation models: Tests of significance and descriptive
    goodness-of-fit measures. Methods of Psychological Research Online, 8, 23-74.
  • Schwarz, G. (1978). Estimating the dimension of a model. The Annals of Statistics, 6, 461-464.
    Shiotsu, T. & Weir, C. J. (2007). The relative significance of syntactic knowledge and vocabulary
    breadth in the prediction of reading comprehension test performance. Language Testing, 24, 99-128.
  • 高橋登 (1996). 学童期の子どもの読み能力の規定因について―componential approachによる分析的研究―心理学研究, 67, 186-194.
  • 高橋登 (2001). 学童期における読解能力の発達過程―1-5年生の縦断的な分析 教育心理学研究, 49, 1-10.
  • 玉岡賀津雄 (1997). 中国語と英語を母語とする日本語学習者の漢字および仮名表記語彙の処理方略 言語文化研究 17, 67-77.
  • 玉岡賀津雄 (2000). 中国語系および英語系日本語学習者の母語の表記形態が日本語の音韻処理に及ぼす影響読書科学 44, 83-94.
  • Tamaoka, K., Leong, C. K., & Hatta, T. (1992). Effects of vocal interference on identifying kanji,
    hiragana and katakana words by skilled and less skilled Japanese readers in Grades 4-6.
    Psychologia, 35, 33-41. 玉岡賀津雄・メンツェル, バーバラ (1994). 日本語教育におけるローマ字使用批判の理論的根拠に関する言語心理学的考察 読書科学 38, 104-116.
  • 玉岡賀津雄・木山幸子・宮岡弥生 (2011). 新聞と小説のコーパスにおけるオノマトペと動詞の共起パターン. 言語研究, 139, 57-84.
  • Tamaoka, K., & Menzel, B. (1995). Die alphabetische Verschriftlichung des Japanischen:
    "Sesam-öffne-Dich" order zusätzliche Fehlerquelle? Zeitschrift für Fremdsprachefor-schung,
    6, 108-128.
  • 豊田秀樹 (1998). 共分散構造分析[入門編]―構造法的式モデリング 東京: 朝倉書店
  • van Dijk, T. A., & Kintsch, W. (1983). Strategies of discourse comprehension. New York,
    NY: Academic Press.
  • Urquhart, A. H., & Weir, C. J. (1998). Reading in a second language: Process, product, and practice.
    New York: Longman.
  • Wong, C-S., & Kenneth S. L. (2002). The effects of leader and follower emotional intelligence on
    performance and attitude: An exploratory study. The Leadership Quarterly, 13, 243–274.

授業中に紹介する論文は,この玉岡賀津雄のホームページの中の「研究業績」からダウンロードできる。

◇履修条件

特になし

◇成績評価

授業への出席および積極的な参加,さらに最後の授業で,四者択一のテストを実施して評価する。

TOPに戻る